破産申立・債務整理
1.任意整理 2.特定調停 3.民事再生 4.自己破産

 ここ数年、借金などが払えなくなり、自己破産をする人々が急増しています。全国で破産が申し立てられた件数は、平成12年度が146,000件、平成13年度が168,000件、平成14年度が224,000と年々増え続け、札幌地方裁判所だけでも1年間に約7000件の破産申し立てが受理されています。
 従来、自己破産を申し立てる人は、ギャンブルや遊興費のために消費者金融からお金を借りたり、クレジットカードで高価な物を購入した人が多かったようですが、最近は、リストラや病気のために職を失ったり、長引く不況で給料やボーナスが減ってしまい住宅ローンが支払えなくなったり、人に頼まれて保証をしたところ、連帯保証人としての責任を追及されてしまったりと、破産に至る事情も様変わりした感があります。また、無担保で簡単に、自分の収入をはるかに超えるお金を借りることができてしまう社会や、貸金業の登録をせずにお金を貸したり、刑事罰の対象になるほどの高利でお金を貸す、いわゆる「やみ金」による被害も、自己破産件数の増加の大きな要因となっています。「借りたものは返す」が原則ではありますが、そう簡単に割り切ることができないのが現実です。

 では、借金や住宅ローンやカード代金が払えなくなったり、連帯保証債務を履行できなくなったりしたときに、どのような解決方法があるでしょうか。
 大きく分けると、次のような方法が考えられます。

1 債権者(消費者金融やカード会社、金融機関等)と今後の支払方法について話し合う
   → 裁判外で話し合う → 任意整理
   → 裁判所で話し合う → 特定調停
2 裁判所を通して、元金を一部カットしてもらう → 民事再生
3 裁判所を通して、債務の全部を免除してもらう → 自己破産

 なお、いずれの方法においても共通することは、債務の額を確定するにあたって「利息制限法による引き直し計算」を行なう、ということです。たとえば、消費者金融会社からお金を借りた場合、利息は通常、年25〜29%かかります。一方で、利息制限法には、元金が10万円以上100万円未満の場合の上限金利は18%と定められています。
 消費者金融会社がお金を借りた人(債務者)から、この利息制限法の上限金利以上の利息を受け取ることができるのは、債務者本人が利息制限法の上限金利を超えた利息であることを知ったうえで、自分の意思で利息として支払った場合に限られており、逆に自分の意思で支払ったと認められない場合には、利息制限法を超えて支払った部分は利息ではなく、元金の支払いに充てられることとなります。自分の意思で支払ったと認められるためには、消費者金融会社には、ある一定の要件を満たした、わかりやすい書面(契約書や領収書)を、債務者に必ず交付することが求められています。
 そして現在の裁判の流れでは、この書面の交付と書面の記載内容は非常に厳格に判断されていますので、多くの場合、債務者が自分の意思で利息として支払ったとは認められないこととなります。そうすると、債務者が今まで利息として支払ってきたお金は、実は元金の一部分の支払いに充てられてきたことになりますので、計算をし直すと残元金の額は、消費者金融会社が示す金額よりも減ることとなります。これが「利息制限法による引き直し計算」といわれるもので、弁護士や私たち司法書士が債務整理の手続きを行なう際には、この「利息制限法による引き直し計算」ができるかどうかを、まず検討することとなります。


1.任意整理

 裁判外で、債権者と、今後の支払方法について話し合う方法です。
ポイントは
@ 債権者に対し、取引開始当初からの取引履歴の開示を求める。
A 利息制限法による引き直し計算をして、最終取引日における残元金額を確定する。
B 債権者との間で「Aの残元金額のみを、3年間(最長で5年間)の分割で支払う。」
  という和解をする。
C 債務者の生活の建て直し最優先に考える観点から、最終取引日までの利息・損害金
   や完済までの将来利息については一切支払わない方向で、債権者に理解を求める。
です。
 この方法によれば、利息制限法による引き直し計算、元金のみの長期の分割払い、損害金や将来利息の免除など、債権者に大幅な譲歩を求めることができ、裁判所に行くことなく、早期に柔軟な解決をはかることができます。


2.特定調停

 任意整理と同じく、債権者と今後の支払方法について話し合う方法です。任意整理と異なるのは、この話し合いを簡易裁判所で行うという点です。
弁護士や司法書士に任意整理を依頼する場合、弁護士や司法書士の報酬がかかりますが、特定調停を申し立てるときにかかる費用は若干の申立手数料と郵便切手代だけですので、債務者本人が自分でこの申立てを行うことによって、費用をかけずに債務を整理することができます。
 特定調停の申立て後は、指定された日時に2回ほど、簡易裁判所に行くことになります。債権者と今後の返済方法を話し合うときにも、簡易裁判所の調停委員が間に入って債権者と話をしてくれますので、自分だけで債権者と直接交渉をしなければならないということもありません。
 特定調停によっても、任意整理とほぼ同じような結果が得られますが、特定調停で話し合いがまとまったときには、調停調書が作られます。この調停調書は判決と同じような効力をもつもので、もしも特定調停での合意を破った場合には、裁判をおこされることなく、直ちに給料の差押えなどの強制執行を受ける可能性があります。また特定調停では、任意整理と違って、債権者は、話し合いがまとまるまでの間の損害金を免除することには応じていないようです。


3.民事再生

 裁判所を通して、元金を一部カットしてもらう債務整理の方法です。民事再生手続きの中に個人債務者向けの手続きとして、小規模個人再生手続きと給与所得者等再生手続きというものがあります(この2つをまとめて、個人再生手続きといいます。)。
 個人再生手続きは、将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり、かつ負債の総額が3000万円を超えない債務者が利用できる手続きです(負債が3000万円を超えるときは、個人再生手続きは利用できませんが、一般の民事再生手続きを利用することはできます。)。
 個人再生手続きにおいては、負債総額や収入の金額、また所有する財産に応じた最低弁済額が決まってはいますが、元金の一部をカットしてもらい、それを原則3年間(最長で5年間)で返済することになりますので、任意整理や特定調停では返済が困難な場合にも、債務を整理できる可能性があります。
 また、後述の自己破産と異なり、一定の要件を満たせば、住宅ローンだけは当初の約束どおり支払い続けながら、他の債務を分割返済することができますので、この場合、自宅を手放すことなく、債務を整理することができます。


4.自己破産

 任意整理・特定調停や民事再生をもってしては債務を整理できない場合には、自己破産を選択することとなります。破産とは、裁判所が行う法的手続きのことで、債務者が経済的に破綻し、債権者に債務を完済できない状態になってしまったときに、債務者の財産をお金に換えて、債権者に公平に分配する手続きです。ただし、消費者金融会社などから借り入れをして破綻してしまった個人の債務者にはお金に換えるべき財産がない場合が多く、このような場合には財産をお金に換える手続きや債権者に分配する手続きは行われません。
 裁判所から破産宣告を受けるだけでは、債務が免除されたことにはなりません。破産宣告の後、裁判所から「債務を支払わなくてもよい」という決定をもらう必要があります。これを免責決定といいます。この免責決定を受けることが、自己破産という方法で債務を整理する最終目標になるのですが、この免責決定は、債権者に貸し倒れという大きな不利益を与えてまでも、債務者の生活を立て直そうとするものですから、たとえばギャンブルや遊興費のために多額のお金を借りたり、換金目的でクレジットカードを使ったりしたような債務者までを保護してくれるものではありません。したがって、場合によっては免責が不許可になることもありますので、何でもかんでも破産すればよいというものでもありません。
 また、自己破産をすると、債務者名義の自宅は手放すことになりますし、生命保険金などがあれば解約して解約返戻金を債権者に分配する必要な場合もあります。したがって、今持っている財産を手放さなければならないことと、債務の免除を受けて今後の生活を立て直すことと、どちらが大切であるかをよく考えて自己破産を選択することが大切です。
 なお、多くの方が自己破産をすることによる不利益を心配されているようですが、選挙権を失うようなこともありませんし、破産宣告から免責決定の確定までの短い期間、弁護士や税理士・保険外交員や警備員等の資格が制限されたり、会社の役員になれないなどの制限がありますが、免責確定後はこれらの制限もなくなります。破産後10年間くらいは、クレジットカードを作ったり新しい借入れはできなくなりますが、これは破産に限ったことではなく、任意整理・特定調停や民事再生においても同様です。必要な物は現金で買えばよいわけですし、破産宣告後に新たな財産を作ることは何の制限も受けません。

 最後に・・・。
 今まで債務整理の方法をご紹介してきましたが、いずれの方法にもメリット・デメリットがありますし、債務総額や債務者の収入・生活状況などによって、利用できる方法や利用できない方法があります。また連帯保証人がいる場合には、債務者だけでなく連帯保証人を含めた解決方法を考える必要があります。長引く不況の中では収入が急に増えることを期待するのは難しく、解決を先延ばしにすればするほど、利息や損害金が雪だるま式に膨れあがってしまいますし、解決のための選択肢も減ってしまいます。
 したがって、自分一人で悩まずに、少しでも早く専門家に相談をすることをお勧めします。
 なお、債務を整理するには、「生活を立て直そう」という強い決意が必要ですし(そうでなければ、3年間の分割弁済などは途中で簡単に頓挫してしまいます。)、家族の協力も不可欠です。当事務所に相談にお越しになる際には、債務者ご本人に来ていただきますよう、また債務整理にあたっては、ご家族には内緒にすることなく正直に話して協力を求めていただきますよう、お願いします。  →ご相談はこちら



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